彼は忽然と姿を消してしまった。正確にはメールで振られてしまったのだ。
そのメールはこうだ。「いい加減にしてください。はっきり言って迷惑です。メールも電話も手紙も、連絡は一切しないでください。」
どうしても諦められず、とうとう会社のメアドにメールした何通目かのことだった。
そのメールはこう続けられていた。「もっとも慶應というブランドがいいのか、僕自身がよかったのか。貴女の気持ちが分からない」。この後に及んでその言いざまに驚かされる。
が、ちょっと立ち止まって考えてもみたのだ。なるほど彼は自慢できる要素がてんこ盛り。
出身大学だったり、サッカー選手だったり、3カ国語が話せたりと、どうしてけっこう素敵な人だ。
それらをブランドと言い換えることができるのか。なるほどまたしも教わったなと地面の土くれを見つめる。
でも慶應はマンモス校だし、学生ならたくさんいるじゃないか。ちっちぇえ奴だな、そういうことをいちばんに言うなんて。と笑いそうになる。
ではわたしが好きな彼とは。彼はわたしを評してちょっとおかしいと指摘してくれた。精神的に病んでいるという意味なのでしょうか……。
そしてもっと周囲の人と仲良くしたら?とかキレてばかりだとか、欠点を指摘してもくれた。言われたときはムッとして、終日彼をシカトした。
が、それが効力があると思っている自分は子供っぽいな。それって彼に甘えている証拠じゃない?と思い直し改めて考え直す。と、なるほど彼の言う通りだった。
こういう人がお父さんだったらよかったのに………。そうして早くも父親のように居て当たり前の存在と化していた。失って初めてその大切さを知った人だった。
もっと素直になればよかった。ブランドとかじゃなくって、あなた自身が好きで必要なんだと人目も構わず縋りつけばよかった。すると、またしてもおかしいと指摘されてしまうだろうか。
そこでわたしは探偵を雇った。
なけなしの貯金をはたいてでも、彼の本心を知りたくなったのだ。なぜなら会社のメールはある日音信普不通となってしまったから。転職したらしい。わたしはもはや彼の居場所すら知らない。